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音楽家/オーディオ アクティビスト・生形三郎さん 「音楽から環境音のサラウンド録音まで、価格を超えた高音質と多機能性を備えたフィールドレコーダー」

様々な録音制作を行っている生形 三郎さんに、DR-680MKIIを色々なシーンでお使い頂きその様子をレポートして頂きました。

ポータブルなPCMレコーダー市場が成熟を迎え、現在では、小型かつ高性能な製品が数多く揃っています。しかしながら、マルチチャンネルかつハイレゾリューション録音が可能なフィールドレコーダーは、ごく限られたラインナップしか存在しないという現状もあります。そんな中、ひと際のコストパフォーマンスと携行性を備えた存在がTASCAM DR-680ではないでしょうか。同機の存在は、知人のエンジニアやミュージシャンが愛用していたことでも以前から気になっていました。そこで今回、DR-680MKIIへのバージョンアップを機に試用させて頂いたところ、想像以上に高性能であったため、即導入を決めました。ここでは、試用の際に行ったテスト収録音源を交えて、使用感をレポートしたいと思います。本機導入のご参考になれば幸いです。

DR-680MKIIは、ファントム電源供給が可能な6基のマイクプリアンプを搭載しているのが魅力的でした。コンボジャック入力は4基で、残り2基はTRS入力となっていますが、筐体の小型性の確保や、フィールドでの録音は4chが多い状況を踏まえると、私にはかえって好適な仕様であると感じます。録音データレートも、2chの場合は192kHz/24bit、6chマルチ+2ミックス同時録音時には96kHz/24bitまでに対応しており、ハイレゾ制作が多い私にとっては、特に192kHz/24bitで録音できることは大きなポイントでした。パソコンや固定電源を用いずにハイレゾマルチ録音ができるのは、非常に魅力的です。また、2chの同軸デジタル入力を備えているので、さらに幅広い用途で使用できそうです。
その他、自然な掛かり具合のリミッターやローカット機能のほか、6chアナログ・ラインアウトと2chデジタル出力、そして同軸デジタル端子を用いたカスケード使用にも対応し、様々な使用環境に対応しているのも、本機ならではと思います。
また、フィールドレコーダーは、電池駆動時間の長さも重要です。DR-680MKIIは単三電池8本で駆動しますが、標準的な国産メーカーのアルカリ乾電池を使用し、4本のコンデンサーマイク(48V 3mA x 4本)にファントム電源を供給した状態で録音してみましたが、約4時間程録音できました。ACアダプター用端子からのバッテリー電源併用を考えると、かなり長時間の連続録音が可能という事になり、長時間のロケも安心です。

操作性

実際に手にとってみると、そのコンパクトさに驚きます。小型で薄型なので液晶画面サイズは限られますが、フロントボタンによるキー割り当てが良く考えられており、不便さを感じません。各トラックのボタンとプッシュボタン式のツマミを回してREC TRIM、MIX PAN、MIX LEVELを調整しますが、隣り合うチャンネル同士の連結操作も可能なので、現場でも素早く調整できます。各トラックの音圧メーターやトリムや音量の設定値も見やすく配され、機能的な画面構成です。また、入力設定の要となる、インプットやゲイン、ファントム電源の切り替えが本体天板部に整列されており、一括で目視確認できるのも安心です。天板部にはトランスポートボタンやマーカー移動ボタンも配され、特にホイール式コントローラーは、プレイバック時の早送りなどに便利です。

DR-680MKIIを用いた収録

レコーダーの性能を試すため、敢えてアコースティック楽器の録音を行ってみました。それも、音域が広く音圧も高いパイプオルガンの収録をメインに選びました。さらに、パーカッションの収録、そしてフィールドレコーダーの本領である野外での生録音にも試用してみました。

パイプオルガンの収録

オルガンは白百合女子大学のご協力を頂き、同大学チャペル内の楽器(1000本のパイプと15のストップを持つ中規模のオルガン。ドイツ、パーシェン社製)を収録しました。収録はサラウンドで行い、フロント用に無指向性と指向性のペアマイク、そしてリア/アンビエンス用に無指向性のペアマイクを用いた、計6本で実施しました。マイクプリ部のS/N感を試すために、音圧の高いレジストレーション(音色の構成)と、音圧が最小のレジストレーションを、それぞれ塚谷水無子氏に演奏して頂きました。

まずサンプル1では、40Hz付近の最低音域も充分な量感を持って録音されていると同時に、華やかな高音域が、刺激的にならずに艶やかに収録されていることに驚きました。空間の見通しも深く、チャペルの大きさや響きも明瞭に描かれています。さらに、S/N感もよく、マイクより数十メートル先にあるオルガンの送風音が、ノイズに埋もれることなく聴き取ることができます。
続くサンプル2は、普段演奏ではあまり使用しない、弱音レジストレーションでの演奏です。極めて小さな音量にも関わらず、オルガンの音色の透明感のある質感が、柔らかい音色とともに収録されていました。収録後に10dBほどゲインを上げましたが、ノイズも全く気にならないレベルです。逆に、チャペル内の暗騒音や鍵盤のタッチなどのディティールも、しっかりと記録されていることが分かります。

演奏:塚谷 水無子さん
使用マイク:フロント用 DPA 4006TL x 2、Schoeps CMC6+MK4 x 2、リア用 Shure KSM141 x 2
サンプル音源:96kHz/24bit。フロント用のマイク(4ch)をメインに、リア2chを補助でミックス

パーカッション収録

パーカッション・デュオは、ライブハウスで行われたPA不使用の生演奏を、飛び込みでテスト収録しました。使用楽器の演奏位置やローテーションが不明だったため、使用マイクは、ステージ天井の照明用バトンに吊った指向性のペアマイクと、ステージ中央、二人の奏者の間に設置した無指向性マイク1本のみで収録しています。サンプル音源は、オリエンタル・パーカッションとガムランのデュオ部分です。

サンプルからお判りいただける様に、Rchのガムランは強い高域エネルギーを持っており、Lchのダラブッカなどの打楽器も、インパルス的な強い打撃音を伴っています。こういった演奏音は、マイクは勿論、プリアンプ部の性能が弱いとすぐに刺激的かつ表情に乏しい音で録音されてしまいますが、DR-680MKIIでは、エネルギー感があるのに刺激的にならず、打撃音のアタックも潰れずに、芯を持った音で記録されています。

演奏:立岩 潤三さん、濱元 智行さん
使用マイク:吊りマイク Shure KSM141 x 2、ステージ上 DPA 4006TL
サンプル音源:96kHz/24bit。吊りマイクをメインに、ステージ上に設置した2chを補助でミックス

環境音の収録(SL)

汽笛の音が野外空間に残響していく余韻もしっかりと収録されており、野外空間の広さを感じることが出来ます。続いて、走り始めの動作音や、目の前を通り過ぎるドラフト音も、リアルに捉えており、野外ロケでのSE録音としても優れた音質を持っていると言えます。

使用マイク:DPA 4006TL x 2、Shure KSM141 x 2による4ch録音
サンプル音源:96kHz/24bit、4chを等音圧でミックス

環境音の収録(野鳥)

時刻が正午近かったため、さほど鳥の鳴き声は多くありませんが、逆にマイクプリのS/N感が試される状況です。近距離や遠距離で、様々な鳥の鳴き声が確認できます。比較的近くでは、断続的に虫の飛行音が聴こえてきます。

使用マイク:DPA 4006TL x 2、Shure KSM141 x 2による4ch録音
サンプル音源:96kHz/24bit、4chを等音圧でミックス

環境音の収録(蛙)

録音中、たまたますぐ後ろの道路をバイクが通過しました。録音レベルを蛙に併せていたため、バイクの通過音はリミッターにより大きくリダクションされています。しかしながら、掛かり具合が自然で、それをほとんど感じさせないことがよくわかります。

使用マイク:DPA 4006TL x 2、Shure KSM141 x 2による4ch録音
サンプル音源:96kHz/24bit、4chを等音圧でミックス

環境音の収録(花火)

住宅街で行われた花火大会のフィナーレ部分の録音です。打ち上げ場所からは数百メートル離れていましたが、花火が発射される際に辺りに轟く、30Hz付近の重低音も鮮明に収録されていることが分かります。また、録音レベルを高めに設定し、敢えて内蔵リミッターでピークを押さえてみました。しかしながら、花火が炸裂する際のピークは自然に押さえられており、ダイナミックレンジの広い音源も、本機のリミッター機能だけで効果的に収録できることがよくわかります。遠方で炸裂する花火の音、それらが近隣のマンションに反射する音、そしてマイク周辺の歓声、それら3者の遠近感も鮮明に描写されています。

使用マイク:Shure KSM141(無指向性モード)
サンプル音源:192kHz/24bit

総括

以上、DR-680MKIIは、総じて、価格を超えた高音質と多機能性を備えたフィールドレコーダーであるということが分かります。特に、素直な音色のマイクプリ設計に好感を持ちました。また、専用のキャリングケースも非常に良くできており、野外でも安全かつ機能的に使用できます。今後も、野外収録で本機を愛用したいと思います。

プロフィール

生形 三郎さん

音楽家/オーディオ・アクティビスト

「音」に関して「音楽」と「オーディオ=録音と再生」の両面から取り組む音楽家。作曲、録音制作、CDやハイレゾ作品リリース、コンサート企画、サウンド・インスタレーション制作、録音技術を用いたワークショップ、オーディオ雑誌や音楽誌(Stereo、レコード芸術、デジファイ、ヘッドホン王国など)での評論や執筆、録音/オーディオ書籍の執筆(デジタル録音入門 / 音楽之友社)など、広く活動する。最近の録音制作に「究極のオーディオチェックCD 2015~ハイレゾバージョン」などがある。

ホームページ:http://saburo-ubukata.com/

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